【米国で広がるタトゥー 国民の2割施術 批判の声も】
米国では5人に1人が彫っているとのデータもある入れ墨(タトゥー)。有名芸能人やプロバスケットボール(NBA)の一流選手らの影響もある。
ただし、タトゥーはひと昔前までは大都市のギャングを連想させるものでもあり、独特の風体に眉をひそめる人々は少なくない。
若手兵士を多く抱える米陸軍は9月、綱紀粛正のためにタトゥーを制限する方針を打ち出した。
全米でもタトゥー人気が高い街の1つ、ニューヨークで取材した。
短銃を口にくわえたドクロ、鎧(よろい)をまとった若武者風のカエル、注射器を持った艶めかしい看護婦-。
若者が集まるニューヨーク市ブルックリン地区のタトゥー店を訪れると、壁に貼られたタトゥー用のおどろおどろしいデザインが目に飛び込んできた。
施術台にいたのは、エンジニアのスティーブン・ケインさん(40)。迫力ある虎の図柄を彫ってもらいに来たという。
彫り師が右腕に虎のデザインを描いた後、電動針で静かに肌を傷つけていく。血がにじむため、紙で拭いながらの作業が続く。施術中は激痛との闘いになる。
ただ、ケインさんは「全然、痛くない。糖尿病の治療で、いつも注射針を体に刺してもらっているからね」と屈託ない。
約14カ月の女児の父であるケインさんは、「彼女が成長したら(タトゥーについて)説明しなければ…」と罪悪感も口にしたが、別の図柄も彫りたいという。
店内で働くジェブ・メイカットさん(33)によれば、同店を訪れる顧客は1日に20~30人。施術代はデザイン次第だが、ニューヨークでは1時間当たり150ドル(約1万5千円)から200ドルが相場だ。完成には数時間から、長い場合は40時間程度かかる。
米ノースカロライナ大のジル・フィッシャー准教授の論文によれば、タトゥーは19世紀末、技術の発達に伴ってニューヨークなどで人気を博した。
1940年代以降は麻薬常習者やギャングの間だけで流行しただけで下火となった。
しかし、90年代には幼少時からタトゥーを入れていた女優アンジェリーナー・ジョリーさんらがトップスターに躍り出て、再び注目されることになった。
米世論調査会社ハリス・インタラクティブの2012年2月の調査によれば、タトゥーがある国民は21%に上る。
年齢別では、18~24歳が22%▽25~29歳が30%▽30~39歳が38%▽40~49歳が27%。
前出のメイカットさんは、「私の店には弁護士や医者も来る」と驚くべきことを口にした。
米国では現在、“カリスマ彫り師”に関するテレビ番組が放映され、「怖い場所という印象のあったタトゥー店への認識が変わりつつある」(女性市民)。
また、自分でタトゥーを刻み込む簡易キットも市販されている。
「的確に使わなければ、ドラッグのために針をシェアするのと同様に危険だ」との声も上がるが、愛好者は増えている。
11年秋には、米玩具メーカーがタトゥー入りのバービー人形まで販売した。
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ニューヨークの女性会社員、モリー・バーナーさん(25)は「タトゥーは意味のない、バカげたものばかりではない。過去の出来事や子供、親、配偶者との関係、宗教的信条などを現したものもある」と語った。
最近では、アップルコンピューターの愛好家の中には、同社のリンゴのロゴマークを彫る者もいるという。
一方、タトゥーを好ましく思っていない米国民は多い。オバマ大統領はその1人だ。
娘のマリアさん(15)とサーシャ(12)さんの教育に関し、オバマ氏は今春、米NBCテレビで次のように語った。
「2人がタトゥーを入れようとするなら、『お父さんとお母さんも全く同じタトゥーを同じ場所に入れる。そして、(動画サイト)ユーチューブに投稿し、“ファミリー・タトゥー”だと見せびらかすぞ』と言ってたしなめている」
メイカットさんも、「敬(けい)虔(けん)なカトリックである祖父からは、タトゥーに反対されている。『顔にはタトゥーをしない』との約束も母と交している」と明かす。
ニューヨークの会社員、ウィリアム・スタンリーさん(61)は「人間の身体は、創造されたまま美しくあるべきで、後で何かを刻まれるべきでない。私が若いとき、タトゥーがある人は刑務所帰りか、反逆者の象徴だった。タトゥーをすれば、年を重ねたとき後悔するに違いない」と強調する。
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米社会で、タトゥーを持つ人々が職を見つけるのは易しいことではない。ホテルや銀行、刑務所、大学、書籍店は特にそうだ。
ある米国の就職支援サイトの調査によれば、タトゥーが「採用・昇進への障害になる」との回答は2位のピアス、3位の口臭を抑えて1位となった。
一度、タトゥーを入れると“依存症”になるとの指摘は多い。「何度彫っても、満足するほど美しく、力強い絵柄だと思えないため」(タトゥー評論家のキャロル・リーバーマンさん)だ。
これに対し、「依存症なのではない。コレクター(収集家)なのだ」と反論する声もある。腕や脚に加え、首や顔にまでタトゥーを入れる人々が増えていることから、顔へのタトゥーを禁じる州も出てきた。
米政府も近年、海外のギャングの入国を阻むため、タトゥーのある永住権申請者に許可を出すのを渋る傾向にあると指摘される。
米陸軍は9月、肘と膝から先にタトゥーを入れるのを禁じた。11年末のイラクからの撤退に加え、14年末にはアフガニスタンからも戦闘部隊が撤退する。タトゥーを全身にまとう兵士を雇ってまで戦力を維持する必要性がなくなるからだ。
海空軍や海兵隊もタトゥー制限の指針をたびたび改訂するなど、締め付けは厳しくなっている。
ある退役兵(70)は、「タトゥーではなく、パフォーマンス(軍功)で評価されるべきだとの若手兵士の反発は理解できなくもない。
ただ、欧州や韓国、日本に駐留する米兵が現地に与える印象も考えた方がいい。“米国の顔”として派遣されるからには、みっともない格好は控えるべきだ」と強調した。
関連:2012/9/25 【クック諸島】宣教師に禁じられていたタトゥー 生き返る伝統 (当サイト)
ソース:産経ニュース
記事元:【国際】 米国で広がるタトゥー 国民の2割施術 批判の声も